治療について

耳鼻咽喉科特有の治療について

最近は、「子どもを泣かせたくない、泣かせずに治療しろ」・「子どもが嫌がることはしない、してくれるな」・「何度も通院したくない」・「薬を飲んでおけば治るだろう」・「薬を飲んで良くならなければ鼓膜にチューブを入れれば良い」・「自然治癒に任せればよい」などという風潮で、耳鼻科医に診てもらっているのに、次のような治療を受けたことがない、という患者さんが多くなっています。
鼓膜切開術、耳管処置(カテーテル通気法)、上顎洞穿刺・洗浄、Bスポット治療という治療法は、昭和の時代から日本国内で行われてきた耳鼻咽喉科特有の治療手段です。医師も看護師も体力を要し、人手も必要ですが、しっかりと病気を治すために、多くの耳鼻咽喉科医の先達が一所懸命続けてきた治療です。私は、現在においても大切な治療手段として活用しています。

鼓膜切開術

急性中耳炎や滲出性中耳炎で行われる小手術です。
「鼓膜切開すると癖になる」という噂に根拠はありません。
適切に鼓膜切開術を行い、適切に治療を続ければ、鼓膜は再生して切開の跡は残りません。
鼓膜切開術では、切開時に多少の痛みを感じますが、長く痛むことは滅多にありません。むしろ急性中耳炎では、切開して中耳の膿を出すことで早く耳痛が良くなるという理由から、診断するとすぐに鼓膜切開術を行うこともあります。

写真1・2は、右側の滲出性中耳炎の鼓膜を切開する前(写真1)と後(写真2)です。鼓膜に大きな傷がありますが、この患者さんは難治性の滲出性中耳炎のため、切開創が簡単に閉じないよう大きく切開しました。この例では、滲出性中耳炎が完治するまで3歳から6歳までの3年間を要し、右鼓膜切開術は3年間で10回行いました。写真2から3年後には写真3の鼓膜になりました。切開の跡や鼓膜の変形はなく、正常な鼓膜、正常な聴力に治っています。
写真4の患者さんは11歳のときに、咳と発熱で当院に受診されました。小さい頃に何度も中耳炎と診断されたが一度も鼓膜切開術を受けたことがなかったそうです。鼓膜には白い石灰沈着が残っていました。幸い、鼓膜の変形はありません。「鼓膜切開しない方が良い」ことはないのです。ただし、中耳に血管が露出している場合など、まれには鼓膜切開ができない例もあります。

  • 写真1

    写真1
  • 写真2

    写真2
  • 写真3

    写真3
  • 写真4

    写真4

耳管処置(カテーテル通気法)

当院では、小さいお子さんでも、カテーテルを使った耳管処置(鼻の奥から中耳へと、耳管を経由して空気を送る治療法)を行っています。耳管処置が大切な治療であることは、次の3点に要約できると考えます。

①鼓膜を正常の形態に戻していく。

耳管機能が悪いと、中耳に溜まった液体や膿が上咽頭に排泄されにくくなり、中耳炎が長引きます。中耳炎をきちんと治すためには、耳管機能を正常に戻すことが必要です。耳管機能が悪いと、鼓膜は凹んできます。鼓膜の凹みが長期間放置されると、時には癒着性中耳炎や真珠腫性中耳炎という難治性の慢性中耳炎に進行する場合があります。  写真5は滲出性中耳炎の終盤で、滲出液はたまらなくなったが、鼓膜の凹みが残っている患者さんの右鼓膜です。耳管処置を行うと写真6の鼓膜になります。凹みの解消した(写真6)鼓膜の方が聞こえも良くなります。この治療を続けることで、正常の鼓膜に戻っていくことが多いのです。

  • 写真5

    写真5
  • 写真6

    写真6

②中耳に液体が溜まっているかどうかを明確にできる。

少量の滲出液が中耳に溜まっている場合は、滲出液を見落として、症状の原因がわからないことがあります。写真7の患者さんは、右耳で音がする、という症状で来院されました。右鼓膜は少し凹んでいます。中耳炎かどうか、はっきりしませんが、耳管処置を行うと、中耳の中の少量の液体が移動して滲出性中耳炎と診断することができます(写真8)

  • 写真7

    写真7
  • 写真8

    写真8

③中耳に溜まった液をしっかり排泄させる。

滲出性中耳炎では、とても粘稠な液体が中耳に溜まることがあります。このようなとき、鼓膜切開術を行っても中耳に溜まった液は簡単には外耳道に出てきません。耳管処置を行うことで、切開創から中耳の液体を外耳道へと押し出すことができます。
写真9の患者さんは、濃い黄色の液体が中耳に溜まっています。鼓膜切開後に吸引すると粘稠な濃い黄色の液体が出てくるのですが、なかなか吸い取ることができません(写真10)。このようなときは特殊なカテーテルを使い、中耳にたまった液体を洗い流すことをします。出てきた液体が写真11です。とても粘稠であることがわかります。すっかり液体を取り除くと 写真12の鼓膜になります。

  • 写真9

    写真9
  • 写真10

    写真10
  • 写真11

    写真11
  • 写真12

    写真12

上顎洞穿刺・洗浄

副鼻腔炎で、頬部や歯、眼の痛みが生じることがあります。痛みで眠れない場合もあります。これは、副鼻腔に溜まった膿が、鼻の中へと出にくいために起こります。抗生剤や鎮痛剤などを飲んでもなかなか痛みが改善しないとき、妊娠中のため長期に抗生剤などが使えないときなどに、鼻の中から上顎洞へと針を刺し、副鼻腔に溜まった膿汁を排泄させる治療です。膿汁を排泄させ、出てきた膿汁を検査することで、効果のある抗生剤を決めることができたり、悪性の病気が見つかることもあります。
中学生以下の小児や、抗凝固薬などを飲んでいる成人では行えません。

Bスポット治療
(塩化亜鉛溶液の上咽頭擦過治療)

鼻の最も奥、のどの奥の最も上方にある上咽頭は、「自律神経のツボ」とも呼ばれ、この部位の炎症が後鼻漏・頭痛・肩凝りの原因となっている場合があります。さらに、上咽頭の慢性炎症が全身疾患を引き起こす感染病巣となっているとも考えられています。上咽頭の炎症に対する局所治療がBスポット治療と呼ばれています。この治療を続けることで、急性炎症の他に慢性の治りにくい病気が良くなる場合があります。
上咽頭に炎症があるときは、この治療で少量の出血や痛みを生じることがありますが、出血や痛みが炎症の存在する証拠である、とされています。耳鼻咽喉科処置の1つですから、当院では保険診療で行っています。

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